わたしは概念を超えた空性に住し、
周囲に愛と慈悲の空間を創りだした。
そこに信仰と誓願の坐具を広げ、
深遠なる生起次第の馬に乗り、
さらに深遠なる究境次第の飾りを身につけた。
わたしは生起・究境の二階梯を統合して
自らを御し、完全な無の状態にとどまったのだ。
中川和也訳
「ユトク伝〜チベット医学の教えと伝説」
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いくつもの手を持つ観音さまや、
馬の顔をした仏さまが、
突然現れたら、
一瞬のひるみもなく受け入れる準備ができているでしょうか。
そんなことを考えてしまうのが、
「ユトク伝」
チベットにおいて、第二の薬師仏と崇められる、偉大な医聖の伝説をまとめた本です。
衆生を病や苦しみから救う為、幾度も医の道を繰り返して転生し、
薬師仏より指示を賜り、あらゆる医学と法をおさめた、ユトクさんは、
ラサのメンツィーカンにも祀られています。
この本は、あらゆることが含まれていて、
1度や2度ではその深遠なる物語に追いつかないのですが、
まず前提として、
< 顕現 >
これが、当然のようにして物語が展開します。
仏に祈り、
その仏の印を持った、一般の姿をした人々、
恐ろしい姿をした憤怒尊やダーキニ、
そして深く帰依した薬師仏や、さまざまな仏が、
当然のように、現れては語り始めます。
さまざまな形で現れるので、
ときにユトクさんも、「これは修行が足りずに生じる幻影か」と
戸惑うこともしばしばです。
疑う余地のないほどに「衆生のため」に在るかどうかを常に試され、
あらゆる指示が、仏から出されます。
「顕現」する。
仏に出逢うことが目的ではなく、
そこから先に、真の目的がある。
この本を読むと、
ハリーポッターの9と3/4番線ホームにスッと入りこむことくらい、
なんてことないと思わずにはおれません。
チベットの歴史を飾るあらゆる偉人の名も連なり、
特に、遠い未来のミラレパの誕生を預言しにきたダーキニが、
ユトクさんに、「彼の為に洞窟を用意しろ」と言って、
その土地の悪しき影響を払い、
導きとして出逢ったモン族の女性の力を借りて洞窟を掘り、
泉を湧かせる場面は印象的です。
どのようにしてインドから四部医典が伝わり、整えられ、編纂されたのかを、
この一冊はとても深く紡いでくれます。
「顕現」するあらゆる姿をした仏やダーキニと、
いつでも対話できる状態であるか・・・。
なによりも顕現について考えるきっかけを、わたしに与えてくれました。
もし、わたしの目の前に、
お不動さんや、
千手観音さんが現れたとき、
驚かずに言葉を聞くことができる自分でありたいと思います。
そして、そのために、
今いる人々の言葉を、
よく聞き入れるようにしたいと思います。
顕現は、あらゆる形で現れており、
いまこの瞬間にも、すべては何らかのサインを放っている気がするからです。
◆チベット玉樹大地震の被災者の方々に、平穏な日々がもたらされますように◆